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Sunday, January 4, 2009

「本物」を見る

 「本物を見なさい。ニセモノをいくら見ても、本物を見る眼は養われませんよ。自分の眼で本物を見ることです。」

 佐谷さんが、授業で言われ、その後ことあるごとに話し、身をもって示されたこの言葉が忘れられません。
 佐谷さんに初めてお目に掛かったのは、私が1997年に慶応大学のアートマネジメント講座を受講していたとき、講師として授業に来られたときのことでした。美術に関わる仕事がしたいと考え、社会人聴講生として履修していた私は、毎週、アートの最前線で活躍される方々のお話を聞くことのできるこの講座から刺激とヒントを受けていましたが、何より佐谷さんの授業が一番心に残っています。
 画廊のお仕事について、美術品市場について、具体的なデータやご経験をまじえて講義して下さったのですが、佐谷さんのお言葉には、芸術と芸術家への深い敬意、愛情と、仕事への情熱が滲み出ていました。今思うと、佐谷さんの生き方、芸術との向き合い方、ご自身の仕事への真摯な姿勢に心を動かされたのだと思います。

 佐谷さんのご自宅に伺ったのは、2000年の春でした。岩渕さんのご紹介で、シカゴに留学する前の3ヶ月ほど、荻窪のご自宅でちょっとしたお手伝いをさせていただきました。丁度、「オマージュ瀧口修造展 中川幸夫 献花オリーブ」の準備をしているときでした。中川さんの作品にするためのオリーブの木を求めて小豆島に行かれたことや、瀧口修造の庭のオリーブの木について、本や写真や瓶詰めを見せながら話されるときの、佐谷さんのいきいきした表情と目の輝きが今も鮮明に思い出されます。そのときは、佐谷さんのお仕事を垣間見ることができ、佐谷さん、奥様、山田さんとお茶をしながらお話したり、奥様のお料理を一緒にいただく佐谷邸での時間がただ、ただ楽しく、嬉しく、興奮したり、感動していたのですが、今思えば、お手伝いするどころか、本当に貴重なご自宅での特別講義を受けさせていただいていたのでした。作家や作品と向き合い、展覧会をつくる上で大切なことは、佐谷さんのお仕事への姿勢と、佐谷さんの経験と情熱と作品への敬意・愛情に裏打ちされたお言葉、お話から学びました。

 その後、留学から戻ったとき、共著でミュージアムの運営と都市政策に関する本を出したとき、ギャラリーに転職したとき・・・いつも佐谷さんは応援し、励まして下さいました。そのたびに、働く場所、立場、状況が変わっても忘れてはいけない原点に立ち返り、自分の志を問い直し、考えさせられました。

 佐谷さんとは、まだまだ沢山お話をしたかったです。是非佐谷さんに見ていただきたいと思えるような展覧会を実現し、ご案内したかったです。何よりも、佐谷さんへの感謝と尊敬の気持ちを十分に伝えられていなかったことが悔やまれます。
 仕事に迷いが出たとき、展覧会の集客や収益にとらわれ日々の仕事に追われて大事なことを見失いそうなとき、佐谷さんのお言葉を思い出すようにします。そして佐谷さんが熱意と愛情をこめてつくられたカタログの数々やご著書を開きます。 佐谷さんが遺された数々のお言葉、ご著書、カタログ、佐谷さんとの思い出は、北極星のようにいつまでも変わらず輝いて、方向と志を見失わないよう示して下さっています。
 佐谷さんに恥ずかしくないよう、「本物」を目指し、いつか、自分の中で佐谷さんへ捧げられる仕事(オマージュ佐谷和彦?)をすることが、私の目標です。

 「本物を見なさい」といわれた、佐谷さんこそが、「本物」でした。そして本物に出会い、本物のお仕事の一端を見ることができたことを幸せに思い、感謝しています。
 佐谷さん、奥様、本当にどうもありがとうございました。 佐谷さんから学んだことを活かし、伝えていけるよう、これからもどうぞ私たちを見守っていて下さい。
 
 佐谷さんを思い、これからも「本物」を見ることを大事にしていきたいと思います。

               
稲葉郁子

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